介護の価値に臨む

:PCP丸の内デンタルクリニック(歯科医院・歯医者)

歯科・PCP丸の内デンタルクリニック


介護の価値に挑む
「歯科医療の観点から高齢者医療を考える」

Care Givers vol18

日本の歯科医療は、海外よりも遅れている?

湖山
先進的な歯科・口腔ケアの意志の中でも、私が最も尊敬する長谷川先生、山内先生のお2人にお越しいただきました。長谷川先生は、東京駅のすぐそばにある、この鼎談の会場でもあります「PCP丸の内デンタルクリニック」を経営される傍ら、湖山グループの介護施設の訪問歯科でもご活躍されています。

山内先生は、銀座で最先端な街に相応しい歯科治療クリニック「BlancPa 銀座」を営んでいらっしゃいます。お二人に共通しているのは、最先端だということです。日本の歯科医療は保険制度などのせいで実は海外から後れを取っています。日本の鹿は、削ることと、歯を抜くことしかできないのです。先進的なアメリカでは、虫歯にさせないことこそが歯医者の第一義と考えられているので、予防や口腔ケアに力を入れていますよね。

山内
私はニューヨークの大学に留学しインプラント治療を学んできたのですが、アメリカと比較すると、確かに日本の歯科医療が劣る部分を痛感しました。一方で東洋人、特に日本人の手先の器用さを活かした治療はアメリカでも非常に信頼され「歯の手術は絶対にアジア系にお願いしたい」という歯科の教授がいたほどです。そこで日本人らしい、器用で職人的な部分を歯科に応用したいと思い、現在は来院当日にインプラント治療を終わらせる臨床をメインにクリニックを開いています。

湖山
実は私も山内先生に患者としてお世話になっているのですが、本当に歯を2時間くらいで作ってしまうんですよ。すぐに出来上がるので本当に助かりました。

山内
ありがとうございます。最初は一日でつくるというこのは苦労しました。そこで、CAD/CAMというコンピュータを使ってセラミックから歯を削りだす最先端の技術と、歯科技工士さんの職人的な技術を融合させることで実現しました。たはりこのご時世、”通わなくていい歯医者”というニーズは、忙しい方が多いので非常に高まっています。例えば、自宅で家族の介護をしている方だったりすると、本当に時間が無くて、虫歯があっても我慢しているという方も多いんです。そういう方に一日だけで治して差し上げたいと努めています。しかしながら、そもそも虫歯にならないようにするために、日頃から歯の健康状態を歯科医師に診てもらうということも非常に重要です。長谷川先生が行っている訪問診療は今後より普及すると思っています。

高齢者に増えている『誤嚥性肺炎』

Care Givers vol18

口の中には400~800種類の細菌が存在

長谷川
おっしゃる通りで予防は日本の歯科治療の課題のひとつです。特に近年、誤嚥性肺炎という病気が高齢者の方に増えています。誤嚥とは、口から食道に入るべきものが気管に入ってしまうことなのですが、この誤嚥をした時に細菌が気道に入ってしまうことで肺炎を発症してしまうのです。訪問診療ではこの予防にも力を入れています。

湖山
介護施設で誤嚥性肺炎で亡くなる方が増えてきて、非常に問題になっていますね。防ぐにはどのようにすればいいのでしょうか?

長谷川
まずはやはり口腔を清潔にすることです。細菌は空気中のどこにでも浮遊しています。そして口の中にも、400~800種もの細菌が存在しています。特に入れ歯には細菌が繁殖しやすいのですが、歯磨きや丁寧なクリーニングをしてもらいたいです。そのうえで気管に細菌が入らないように、食事の際の噛む力・飲み込む力を向上するための、口の筋肉を運動によって動かすことが重要です。介護施設に伺った際には、施設スタッフの方に食事の前に舌を動かす運動などを、入居者に勧めるように指導しています。

口や歯も加齢により衰えていく

“オーラルフレイル”軒足を見ることで口の中も健康に保つことが大切。 “共食”もフレイルの予防には有効

山内
高齢者の口腔ケアで言えば、「オーラル・フレイル」という概念も注目を集めています。そもそもフレイルとは、加齢による身体の衰えのことなのですが、それが口や歯にも当てはまるのです。例えば口が渇いたり、以前より滑舌が悪くなったり、食べ物をこぼすようになったりなどが特徴です。定期的な検診で、フレイルの兆しを診てもらうことが、口の健康に繋がるでしょう。

湖山
身体の衰えと、年齢意識のギャップは危険を生むことがありますね。たとえば50歳を超えているのに、若い意識で運動をすると怪我をしたり。喋りながら早く食べると、本当に時々ですが、むせるようになりました(笑)。

山内
早食いは食べ物をあまり噛まないため、オーラルフレイルが訪れる確率が非常に高まりますよ。ゆっくり味わい、会話を楽しみながら食事をする”共食”がフレイルの予防には大切です。

ひとりで食事をする”孤食”が人間に与える影響とは?

長谷川
ひとりで食事をする”孤食”も問題になっていますね。お年寄りでも、小さな子どもでも、ひとりで食べるとしっかり噛まないことによって口の筋肉がどんどん衰えてしまうんです。

湖山
孤食を解消するために、地域の子どもたちを集めて食事の場を提供する「子ども食堂」が全国に広がっていますが、私は介護施設を「子ども食堂」の代わりに出来るのではと考えているんです。川崎の特養ホームに、4歳と10歳の娘がいる看護師の方が働いているのですが、彼女は施設にお子さんを連れてきているんです。娘さんたちは、そこで入居者とお話をしたり、お茶を持っていったりしているんですよ。それを見て私は、子どもと高齢者の共生が実現できると思いました。介護施設は大人もいるのですで安心ですし、そこで子どもたちを集めて食事を食べてもらうというのは第二の「子ども食堂」になっると考えています。それに介護施設の食事は栄養バランスも完璧ですからね。

長谷川
埼玉県狭山市に新しく出来た「狭山公樹会」は、施設の隣にある保育園と自由に行き来が出来るようになっているので、子どもとお年寄りの共生の第一歩になりそうですね。

湖山
あそこの施設は、子どもたちに気軽に来てもらうために「地域交流室」を作りました。部屋の中には絵本が1000冊おいてあって、図書館になっているんです。毎日保育園の先生が子供たちを連れて遊びに来て、楽しんでもらってます。お年寄りの方も子供たちが来ると、顔が明るくなり、元気をもらっているみたいですよ。

山内
素晴らしいです。私もぜひ協力したいです。そして、絵本をプレゼントしたいです。

湖山
山内先生や長谷川先生には、むしろ施設長として来ていただきたいと思っているんですよ。現在介護施設では入居者の要介護度が平均3.9を超え、重度の方が多くなっている傾向にあり、医療の重要性が高まっているんです。そこで、湖山グループでは実験的に、医師や看護師、理学療法士といった、医療のプロフェッショナルの方を施設長に迎えた介護施設を増やしています。しかし、いまだ歯科医師を施設長にした施設はありません。一口に「入居者」と言っても、みなさん異なる身体の問題を抱えているので、それを解決するのが特化型の介護施設だと考えています。やはり口で苦しんでいる方も多いんです。だからこそ、歯科医師の方に介護施設の施設長になってもらいたいのです。あとは私自身のためにも、栄養士が施設長を努める糖尿病特化型の施設も作りたいですね(笑)。

山内
歯医者が施設長になるというのは、歯科業界のターニングポイントにもなると感じます。歯科医師は若いときに開業するので、多くの経験を積むのですが、そうしても50歳を過ぎたあたりから老眼になってしまい、施術のスピードが落ちてしまうんです。そうなると外来という方式だと、多くの患者さんを診ることが難しくなってしまいます。そういうときに介護施設で限られた数の患者さん、ひとりひとりに向かい合うというのは、歯科医師の新たな道になるはずです。

長谷川
外来診療と異なるモデルと言うと、私たちが行っている訪問診療も近いところがあります。いま働いてもらっている歯科医師、歯科衛生士の方は、子育て中で長時間の仕事は出来ないという女性が多くいらっしゃいます。訪問診療の場合は、一日に決まった施設に伺い診療するので、フレキシブルに働けるため、家事や子育てと両立して働けるんです。

湖山
歯科医療の働き方改革になっているんですね。長谷川先生は都心で先進的な外来のクリニックをやりながら、訪問診療も行っていますが、どのような点が異なると考えていますか?

長谷川
あまり両者を分けて考えていません。私の歯科医師としてのモットーは「医食同源」という言葉です。当然のことながら我々人間は、口から栄養を摂って、はじめて健康な毎日を過ごせるようになるわけです。歯科医療というのは、真っ先に口の中に入ってくる食べ物を美味しく、しっかりと噛み砕いて、体に優しいように運べるようにするという点で一般診療も、訪問診療も全く同じことではないでしょうか。高齢者の方々に美味しく、楽しく健康にそして健康になっていただけるようなお手伝いができることがまずは真っ先に重要なことだと考えています。

湖山
湖山グループは医療と介護と暮らしを、3in1という形で連携することを目指しています。最先端の医療と歯科をどのように介護の現場に提供していくかを考えたときに、山内先生、長谷川先生のクリニックとどうネットワークを築いていくかが新しい地域包括ケアの鍵になると考えています。私は歯科医師の新しい世界を作りたいという野望を持っているので、3人で協力して実現しましょう。



長谷川 浩之(写真左)
1960年東京都生まれ。医療法人社団浩昭会理事長。
PCP丸の内デンタルクリニック理事長。丸の内永楽ビル歯科クリニック理事長。日本訪問歯科協会認定医。ドライマウス研究会認定医など。現在はふれあい歯科グループ代表として東京、神奈川、埼玉、仙台で訪問歯科診療も行っている。

湖山 泰成(写真中央)
1955年東京都生まれ。湖山医療福祉グループ代表。
順天堂大学スポーツ健康科学部客員教授。英知大学大学院修士課程修了。三井信託銀行勤務を経て、父・聖道氏が院長を務める銀座菊池病院役員として経営を再建。その後、日本全国に数多くの病院、介護施設を展開し、現職。

山内 宏冶(写真右)
1963年生まれ。ブランパデンタルクリニック院長。歯科医師。
ミシガン州グランドラピッツにて幼少期を過ごす。日本のインプラント黎明期に歯科インプラント中心に診療従事。現在はCAD/CAMと日本の歯科技工を応用し、通わなくてもいい歯医者の発展に従事。

ケアギバースマガジン vol18 から抜粋:
PCP丸の内デンタルクリニック
(東京都千代田区丸の内)