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歯みがきで認知症を防ぐ
介護が必要な高齢者に歯みがきを習慣づけることで認知症の進行を抑えられるのではないか─?
今、その調査が全国の老人介護施設で行われています。
これは高齢者に限った話ではなく現在、介護に携わっている人はもちろん、将来老人になるすべての人にとって身近な問題。
調査を推進されている東北大学医学部教授・佐々木英忠先生に歯みがきの知られざる効果をお聞きしました。
口の反射機能に重要なサブスタンスPの減少が認知症の原因に。
「年齢とともに口の反射機能は低下していきます。介護が必要な、いわゆる寝たきりの高齢者には歯みがきの習慣をやめている方も多いのですが、それがいかに脳に悪い影響を与えるか、多くの人に知ってほしい」と佐々木先生はおっしやいます。
口の反射機能とは、健康な人なら無意識に行っているセンサーのようなもの。食べ物や唾液を感知して飲み込んだり(喋下(えんげ)反射)、気管に異物が入ったらせきをして外に出す(せき反射)など口の正常な働きです。 「口のセンサーが正常に働かないというのは、何らかの脳血管性障害によって脳内のサブスタンスPという神経伝達物質が減っている状態。この物質はアルツハイマーを引き起こすベータアミロイドタンパクを分解する働きがあるので、サブスタンスPが減るほど認知症になりやすいわけです」。
実は、ベータアミロイドタンパクという物質は若い人でも分泌されていますが、サブスタンスPによつて瞬時に分解されるため通常は問題ありません。要はマイナスとなる物質をためすぎないよう、プラスに働く物質のバランスを正常に保つことが肝心なのです。
サブスタンスPの合成に深く関わるのがドーパミンという、神経回路の司令塔のような物質。快感を得ると分泌されることでも知られています。
「ドーパミンが少なくなると、サブスタンスPも減っていく。つまり日常生活の中での刺激がサブスタンスPをつくります。たとえ自力で動くことができない方でも、日常的に何か刺激を送り続けると脳は活性化するんですよ」
そこで、佐々木先生が着目したのが、歯みがき習慣でした。

口の刺激が脳を刺激。
健康な歯を持つ人ほど長生きができる!?
人間の脳が受ける刺激のうち、約40%は口が関係しているといわれます。栄養を摂り入れ、味覚を味わい、コミュニケーションを果たす口は、人間にとって大切な器官なのです。
先生の考えは「口を刺激することは、脳を刺激する一番の近道」ということ。知覚の神経は口に集中しており、歯や歯ぐきを刺激すると脳の主要な部分に刺激が伝わることがわかっています。
「まだ解明されていないことも多いのですが、口腔ケアには未知数の可能性があると思います」とのことです。 たとえば、サブスタンスPを上昇させる薬剤もありますが、薬による身体への負担や出費と比べると、歯みがきは、すぐに始められる手軽な方法。認知症の介護は大変なので、歯みがきで少しでも症状の進行を防げれば、介護する負担の軽減につながります。「ぜひ介護する方もそれを頭に入れておいてください。朝昼晩と毎日続けることが大切なんです」。
老人科でさまざまな症例を診てこられた佐々木先生が指摘されるのは、高齢になっても元気な方に見られる共通点。それは歯の健康状態と寿命との因果関係です。
「歯の本数が残っていて、かみ合わせのよい人は大抵長生きですよ。歯のない人に比べて食べ物を制限されないこともありますが、しつかりかむことで脳への刺激が衰えないからではないでしょうか」。
脳疾患が原因の多くの老人病を予防する歯みがき習慣のパワー
佐々木先生が口腔ケアを研究されたきっかけは、ある高齢の肺炎の患者さんでした。「その患者さんの口の中を覗くと、喉に漬物がひっかかっていました。でも、本人は、まったく気づいていない。口の中の感覚が鈍感になっていたんですね」。
高齢者の最大の死因になる老人性肺炎は、このように口のセンサーが低下し、口の中の細菌がそのまま気管に入ることで起こります。 10年前にサブスタンスPの減少が口の反射機能を低下させることに注目した先生は、「口腔ケアで、肺炎は防げるのではないか?」と、要介護老人の歯のケアと肺炎のつながりを調べる調査を行いました。その結果、食後に5〜10分の歯みがきを2年間続けた高齢者は、肺炎の発生率が40%も減少したのです。その際の副産物として、歯みがきが認知症状にも効果があることがわかってきました。
麻痺など具体的な症状がなくても、65歳以上になると約半数の方に脳血管性障害があると言われています。元気な方でも以前より怒りっぽくなったり、イライラする傾向があれば要注意だとか。特に大脳のより深部に障害がある場合は、約30%の人が2年以内に肺炎になるというデータもあるのです。
「たとえば、コレステロールを抑えるために食事制限をするなど、健康を維持する方法は、いろいろあります。しかし、長く続けないと意味がない。その点、歯みがきは、特別なことではなく、日常生活の一部となっている行為だから、続けやすいでしょう。
さらに、歯みがきは激しい運動に比べて、小さな労力で、より効果的に脳を活性化できます。取り組みやすく、続けやすい健康法だと思いますよ」
現在、介護が必要なご家族を抱える方もそうでない方も、日頃の歯のケアの大切さを認識しておきたいものです。

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佐々木英忠(ささき ひでただ)
昭和16年秋田県出身。東北大学医学部第一内科大学院を卒業。同大学医学部第一内科を経て、同大学附属病院老人科教授に就任。
老年・呼吸器病態学の研究に携わり、老人を専門に診療する老年科の必要性を説き実践にあたる。現在、東北大学大学院医学研究科教授。日本老年医学会理事長をはじめ、多くの学会理事、評議員を務める。 |
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